ヒロシマナガサキ

「ヒロシマナガサキ (White Light/Black Rain)」を観に、岩波ホールへ。

半蔵門線で神保町へ向かう。一つ手前の九段下に停車。そっか、近いな。映画を観た帰りに靖国に寄っていこうかと思う。
坊主頭の開襟シャツを着た右翼の端くれのような若者が清々しい表情で乗り込んでくる。手には靖国神社の紙袋。袋の中から、十六条旭日旗みたいなもの(旗のことはよく知らない……)が透けて見える。

神保町に到着。駅のホームで、僕はまだ兵隊になれる年齢だなあと思う。

岩波ホールへ。
シネコン慣れしてしまったので、「映画館」的システムに戸惑う。

客はけっこう入っている。50代,60代の姿が目立つ。中には若い人もいて、専修大の学生さんかな、あの子は明治かな、と勝手に近くの大学の学生だと決め付けてみる。
岩波ホールの椅子が意外と座りやすく、昭和生まれの体に馴染む。

竹下通りの少年少女が1945年8月6日に何があったか知らないという映像から映画が始まる。
広島と長崎の被爆者、エノラ・ゲイのパイロットが語る。彼らの話にグッと引き込まれる。

キノコ雲じゃなくて、火柱。爆心地は5000℃。おかあちゃんと寄っていったら、ボロボロと灰になって。顔が黒いボールみたいになった。
原爆が落ちたあとの映像、写真。何もなくなった街、頭蓋骨、丸焦げになった人……。
後遺症に苦しむ人の映像。全身のヤケド、腕、足がなくなった人、目玉がなくなった人……。

頭がクラクラしてきた。心臓がバクバクする。

看護婦が近づいてくると「殺せー、殺せー」と叫んでいたんですよ。

苦しい。胃からこみ上げるものがある。目をそむけた。目を閉じた。席を立ちたくなった。
しばらくすると落ち着いてきたが、映像はまだ直視できない。全身から汗が吹き出る。Tシャツが湿る。被爆者は語る。

何だかよくわからない。自分(の体)がこういう反応したことにビックリした。映画が終わったとき、汗はひいていたけれども、全身の力は抜けたままだった。

ボーっとしたまま歩いて靖国神社へ向かった。暑くて、Tシャツが再び湿る。

警察の人と右翼の人が何か言い合っている。人と人の話し合いだ。
石原慎太郎みたいな言葉を使う人たちが、ビラをまいている。

南京大虐殺はウソ、従軍慰安婦はただの売春婦、外国人参政権絶対反対、河野談話は撤回せよ、北京五輪やめろ、台湾英霊に感謝、シナ、シナ、シナ……。

大きな鳥居の前で立ち止まる。踵を返し、スターバックスコーヒーで冷たいコーヒーを飲んだ。

「靖国で会おう」

将来この言葉を言う機会があるのだろうか。

そういえば映画「夕凪の街 桜の国」で麻生久美子は穏やかに死んだけど、本当は苦しかったのだろうなあ。

僕はまだ兵隊になれる年齢だなあ……。
自由と民主主義を叫ぶテロリストにもなれるなあ……。
侵略されたらレジスタンスにもなるし、ガンジーにもなるかもしれないし、逃げるかもしれないし、もしかしたら英語教育を受けるかもしれないなあ。日本には民主主義がない!なんてこと言われちゃって。

まだ力が抜けたまんまで、僕もやっぱり竹下通りにいるのかもしれないなあ。

2 comments

  1. 斎藤なぎ says:

    私も先週、新宿で「夕凪の街~」を観て、昨日は京都で「ヒロシマナガサキ」を観ました。

    「夕凪」はまんがより、男女の恋愛感情が誇張されていてちょっと辟易しました。まんがのほうがずっといい。人に貸しまくっています。
    国立のヘーゼルナッツで読書会、というか読後感を喋りあう会があったようで、とてもいい会になったそうです。
    http://blog.goo.ne.jp/hazelnuts-studio

    「ヒロシマナガサキ」は、私も同じような反応になりました。
    目をつむったり、もじもじしたり、泣いたりイライラしたりして。
    「妹の名前を呼べない」と言った女性が印象的でした。彼女の選ぶ言葉が、とても胸にささりました。

    この国では、戦争も原爆も、なかったことのように過ごせるんだな、それってすごいな、と改めて思ったのでした。

  2. TS says:

    「ネガティブ」と言われてしまうモノゴトは、隠されちゃって、それこそ「なかったことのように」、「いないかのように」して、僕らが生活してるのだとすると、やっぱり気味が悪いです。ホントすごいなあとも思います。

    なんて上から目線で言いつつ、僕も本当に目を開いて、耳の穴をかっぽじって、想像力を駆使して、世界を感じているのか、自信がないですが……。(だからこそ映画見に行ったりしてるのですけど)

    国立・ヘーゼルナッツ、気になるリストに入ってましたが、あんまりチェックしてなかったです。いろいろやってるのですねえ。

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